登場人物が全員「柳沢」の青春野球恋愛小説 第1話 柳沢の決意

ジリジリと照りつける太陽。

ブラスバンドの演奏と、その合間に響くセミの大合唱。

スタンドからの声援、仲間たちの曇りなき眼差しと涙。

その夏の日の光景を、柳沢は一生忘れないだろう。

柳沢「俺、今日の試合に勝ったら柳沢に告白しようと思うんだ」

「俺、今日の試合に勝ったら柳沢に告白しようと思うんだ」

全国への切符を賭けて球場へ向かうバスの車内で、柳沢が唐突にそう切り出した。

「おいおいマジかよ柳沢!

いの一番に驚きの声をあげたのは柳沢だ。
親友の柳沢が告白宣言をしたのだから無理もない。

「聞いてないぞー柳沢!恋する男は羨ましいぜこんちくしょう!」

お調子者の柳沢がいつもの調子で茶化す。これもチームでは見慣れた光景だ。

「ハハハ。お前はこの前柳沢に告白してこっぴどくフラれたばかりだもんな。」

柳沢の傷心に塩を塗るような毒舌の主は柳沢。試合になるとこの毒舌はヤジとなって相手チームを惑わせる。

「ほっとけ!同級生の女はもう諦めたよ!次はバレー部に入った新入生の柳沢ちゃんにアタックするから見とけよ!」

柳沢のこの打たれ強さは、リリーフ投手として大事な資質だ。
柳沢が後ろに控えているからこそエースの柳沢も安心して全力投球ができる。

「懲りないわね~、アンタも」

女子マネージャー柳沢が呆れる。実はこの柳沢、柳沢のことが好きなんじゃないかと柳沢は分析していた。
柳沢にだけ冷たくするのは愛情の裏返しなのでは、という読みだ。
その分析結果をある日の練習帰りに聞かされた柳沢は、そこまで柳沢の言動に注目している柳沢こそ、柳沢に惚れているんじゃないかと睨んでいた。

「恋するのはいいけど柳沢、緊張してエラーなんかするなよ!」

最後部の座席から柳沢が大きな声をあげた。

「そういう柳沢も、この前みたいにバント失敗は勘弁な!」

「ハハハハハ!」

準決勝での柳沢のバント失敗はチーム内でかっこうの弄りネタとなっていた。

こんな冗談が飛び出すのもチームの雰囲気が良いからこそだ。

「青春ですな~」
柳沢は今日もクールにみんなの談笑を眺めていた。

そんな柳沢の隣で、柳沢が一人神妙な面持ちで外を見ていることを、柳沢は見逃さなかった。

(柳沢・・・)

そう、柳沢も柳沢に好意を寄せているのだ。
柳沢は親友である柳沢にだけは柳沢への恋心を打ち明けていた。

もし試合に勝って柳沢が柳沢に告白したら、柳沢の恋が失恋に終わるかもしれない。柳沢は、切なさのやり場に困った末に、窓の外へと視線を向けた。

7月の空の青はどこまでも鮮やかだ。

それぞれの思惑を乗せて、バスは球場に近づいていく。

少年と青年の狭間で揺れる心は、炎天下に燃え上がる夢舞台でどんな色に輝くだろうか。

柳沢への感謝と柳沢たちの応援

「よし、集まれ!スターティングメンバーの発表だ!」

柳沢監督の一声で、チームはベンチ前に集結した。

「はい!!」

「1番、ショート柳沢!」

「はい!」

「2番、セカンド柳沢!」

「はい!」

「3番、ライト柳沢!」

「はい!」

「4番、サード柳沢!」

「はい!」

「5番、ファースト柳沢!」

「はい!」

「6番、センター柳沢!」

「はい!」

「7番、キャッチャー柳沢!」

「はい!」

「8番、レフト柳沢!」

「はい!」

「9番、ピッチャー柳沢」

スタメンに大きな変更はない。これまでの予選でいくつもの奇跡を起こしてきた不動のレギュラー陣だ。

特に柳沢、柳沢、柳沢のクリーンナップは快進撃の原動力であり、準決勝では好投手柳沢から5点を奪った。

試合前の練習が始まった。

柳沢は、ふとスタンドを見渡す。

やはり決勝戦とあって中学生の試合とは思えない観客がかけつけていた。

公立校では異例の全校応援ということだったが、これは野球好きの柳沢校長の計らいだそうだ。

「おーい!柳沢!頑張れよー!」

一際大きな声を上げているのは社会を教える柳沢先生だ。
その隣では、体育の柳沢先生もメガホンを叩いている。
前日に準決勝で敗れたテニス部の顧問、柳沢先生は少し複雑な表情。

驚いたのは、鬼の柳沢こと学年主任の柳沢先生が応援団に交ざって声を上げていたことだ。

(そうか・・。みんな応援してくれているんだな・・)

生徒の応援席に目をやれば、柳沢に柳沢といった柳沢の親友を始め、サッカー部キャプテンのイケメン柳沢、学級委員長の柳沢、不良グループの柳沢たちの姿まである。

父兄の応援席には、柳沢の両親である柳沢と柳沢が、柳沢の家族と一緒に駆けつけてくれたようだ。

「柳沢〜かっとばせ〜!!」

ゲッツーのことをゲッツと呼んでいた野球音痴の柳沢も、今やすっかり応援団長だ。

毎日のように早起きして作ってくれた弁当は、柳沢の密かな支えだった。

そして普段は寡黙な柳沢も、息子の晴れ舞台にソワソワしている様子だ。

「集合!」

ついに試合開始の号令がかかった。運命を決める夏が、今始まる!

〜続く〜

次回、柳沢「柳沢、私決めたの。決勝戦で柳沢君たちが勝ったら、私柳沢君に告白するわ!」

この記事を書いたライター

キーユ
キーユ死にかけの不死鳥
1985年生まれ。
ギャグ記事やWEB、音楽、ゲーム、育児などを書いています。
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著書:新種発見!69匹の愉快な生き物図鑑

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