ここに記すのは、アンパンマンと育児家庭との神秘的な関係性を論じたリポートである。
科学的な論拠はなく、筆者がジャムおじさん的な(?)視点で綴った産物であることを予めご理解頂いた上で読み進めて貰えたら感無量、嬉小便無限漏出である。
アンパンマンの偉大さ
日本における多くの乳幼児はアンパンマンを教祖とするアンパンマン教の信者である。
入信ルートは多岐に渡り、布教ビデオを直接見た場合は概ね100%が入信するほか、玩具や絵本を経由するケース、保育園にて先輩信者からの勧誘を受けて信仰を始めるケースもある。
なんのために生まれて
なにをして生きるのか
こたえられないなんて
そんなのは いやだ!
「アンパンマンのマーチ」より
これはテーマソングの一部を抜粋したものだ。
古今東西の偉大なアーティストたちが表現しようと苦心してきた壮大なテーマを、アンパンマン教はAメロの4行にさらっとまとめあげている。
冒頭で全部言っちゃったよ!と天国からジョンレノンのツッコミが聞こえてくるようである。
しかもこの4フレーズにはFunkもSoulもBluesもRockもHiphopも内包されている。
歌詞の意味は分からなくても、信者たちは齢0歳にして人類の根源的な哲学的探究心に対峙しているといえよう。
自己の確立と”あぱーま”
信者達は入信当時を振り返り「ばぶばぶ(気付けば神が住み着いていた)」と回想するだろう。
そして、空間認識能力の芽生えと共に全ての円形の物質を「あぱーま(アンパンマンと言ってるつもり)」と呼び始める。
「ママ」「パパ」などのワードよりも早くに教祖の名前を発することもあり、両親を嬉しさと切なさの狭間の複雑な境地へ連れていく。
その後声帯と言語能力の発達に伴い、信者の中には生後一年に満たない段階で「アンパンマン!」とアナウンサーばりの発音で叫びだす者も表れるが、教祖の名を叫ぶ行いは他のメジャー宗教にもみられる特徴である。
その信仰心は澄みきった空のように純粋で、底の見えぬ海のように深い。
悲しみの淵で嘆き泣き叫ぶ信者に教祖の人形を見せるとたちまち笑顔を取り戻し、教祖の絵さえ描いてあれば何にでも興味を示してくれるというのだ。
まるでイエスキリストが起こしたとされる奇跡のようである。
アンパンマンが親にくれるプレゼント「時間」
両親達は、このような信者の信仰心と教祖様の求心力を利用し、アンパンマン様のビデオを見せている間に家事や仕事を片付ける。
信仰によって秩序を保つ政治技法はあらゆる宗教立国の民衆統治にも通ずるが、親たちにとっては知ったことではなく、とにかく藁にも、いやパンにもすがる思いでアンパンマン教に活路を見出だすのだ。
そう、アンパンマン教に救われているのは子供でなく大人なのである。
アンパンマンは大人のヒーロー
子供は可愛い。愛しい。大多数の親にとってエブリシング・オブ・エブリシングといえる存在であるはずだ。
しかし一方で睡眠不足は深刻を極め、家事は溜まり続け、仕事は思うように進まず、パートナーとの関係はこじれていく。
やり場の無いフラストレーションが家の中を彷徨うなか、小さな命は容赦なく我を育てろと泣き続ける。
半ばヤケクソ気味にすがったパンの奴がそこに一筋の光を当てるのだ。
そうだ うれしいんだ
生きるよろこび
たとえ 胸の傷が痛んでも
嵐のように泣いていた我が子が魔法にかかったように泣き止む。
なかなかご飯が進まない子供も、アンパンマンの食器やスプーンからなら食べてくれる。
そんな奇跡を目の当たりにした親たちは、次第にアンパンマンに感謝し始めるのだ。
アンパンマン、いやアンパンマン様は親にとって育児というゴールの見えない辛く長い道のりに現れた、あんパン風の神である。
いつかきっと
アンパンマン様は雨の日も風の日も、成長する子供達をいつものニヤケ顏で見守ってくださる。
「あーんパーンチ!」を両親やペットに披露した日。
アンパンマン様以外のキャラ名を覚えるも、「バイキンマン」を「ちんまん」という放送コードにひっかかりそうな呼び名で呼んだ日。
近所のおじさんおばさんをアンパンマン呼ばわりすることで新たなコミュニケーションを創出した日、または場を戦慄させた日。
成長のストーリーの傍にはいつもアンパンマン様が登場する。
いずれ小さな命はアンパンマンを別の何かに持ち替えて、大人と呼ばれるものになるだろう。
赤子の頃に受けた恩恵のことはきっと思い出せない。
しかしいつか、もしも彼らに子供ができた時、再びその名前を呼ぶだろう。
なにが君の しあわせ
なにをして よろこぶ
分からないままなんて
そんなのは いやだ!
この記事を書いたライター
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1985年生まれ。
ギャグ記事やWEB、音楽、ゲーム、育児などを書いています。
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著書:新種発見!69匹の愉快な生き物図鑑
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